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掲載日:2023.3.1
最終更新日:2023.10.19
「何を目的に生き、どう死ぬか」TVドラマのような人生の中で見つけた「自身の価値を深堀りする」ことの大切さ
「弱小ラグビー部をわずか3年で全国大会初出場へ」まるでTVドラマのような日々を駆け抜けてきた――。 大学卒業後、電通勤務を経て教師となった星野さんは、常に「今いるところのその先」を見据えています。セルフプロデュースを実践しながら若いアスリートを導いてきた教育者は、「どう生きたいか」に向き合うことで目指す自分やセカンドキャリアが見えてくる、と教え子たちにエールを贈ります。
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INTERVIEWEE
星野明宏(前 一般社団法人 静岡県ラグビーフットボール協会代表理事)
interviewer: Isako Yamazaki
writer : Rieko Narita
「試合で勝ちたい」より内側にある感情に目を向ける

-社会との接点があまりないアスリートの方が、セカンドキャリアについて不安に思ったり自信が持てなかったり、苦労されているように感じます。

 

まずはいまの自分をしっかり見据えて、どういう人間になりたいのかを考えることです。そうすると、いま取り組んでいることに対する見え方が変わります。例えば競技に対してだと、実は競技が楽しいというだけでなく、「うまくプレイできたことによる自尊心の高まりや、周りが喜んでくれることが楽しいのだ」といったことが見えてきます。

 

それは、「試合で勝ちたい、いい大学・いい企業に進みたい」というものよりも内側にある感情です。ここで見つけた自分の感情や目標が、やがて目の前のことに取り組むための目的になります。

 

なんのために生きるのか、どうやって死んでいきたいのかを考えると、実は職種にこだわる必要さえもないのかもしれません。働く場所だってどこでもいい。自分がやっているスポーツについても、そういった考え方で一度見つめ直してみてもいいのではないかと思います。

 

そうすることで、自分をさらに輝かせることのできる場所が見つかるかもしれないし、今の場所の新たな魅力に気づくこともあるでしょう。そして、どんな場所で何を成し遂げたいのかがわかれば、もうこの先の目的も見えたようなものです。

 

こうして得た目的を達成するために、次の行動を考えてチャレンジしていくことがセカンドキャリアにも繋がるはずです。

 

アスリートはすごい力を持っています。皆さんが躍動し人間力をどんどんと向上していけば、そこに感動してくれる人がいるし、それが結果的にあなた自身の人生の喜びにつながっていくと思います。

デュアルキャリアの先には「誰にも真似できない人材」があった

-セカンドキャリアについて考えられる機会が増えてきたとはいえ、キャリアに対する考え方は様々です。例えば「アスリートから一般企業への進路はキャリアダウンだ」と考える人もいるようです。しかしながら、果たしてそれは本当に「キャリアダウン」なのでしょうか。

 

私は電通をやめて教員になりましたが、それがキャリアダウンかというと、決してそうではありません。電通に比べて教員でダウンしたものを挙げるとするならば、それはお金の部分。それ以外はむしろキャリアアップになったと思っています。

 

教員になると、電通での仕事を続けていては味わえなかった経験や感動、新たな人たちとも出会うことができました。そして、それらを通して新たな自分の価値を創出することもできたのです。

 

セカンドキャリアというのはこれまでのキャリアと新たなキャリア、この両方が活かされて、誰にも真似のできない「ハイブリッドパーソン」になれる機会なんです。

 

振り返ってみると、私の歩んできたキャリアは常にデュアルキャリア的でした。それは、自分がどのような生き方をしたいのかを見つめた結果です。

 

私は中学1年から大学卒業までラグビーをやっていたのですが、教育とスポーツビジネスに携わりたいという夢がありました。

 

大学卒業後に就職した電通ではテレビに関わる業務を8年間担当しましたが、スポーツビジネスに関する部署はありませんでした。さらに当時は激務で夜遅くまで仕事や会食をするという毎日だったので、ますます夢の実現は遠くなったかに思えました。

 

でもスポーツビジネスへの夢も追いたい。普通に過ごしてしまうと夢に近づくことはありません

だから、「17時までに仕事は終わらせ、17時から21時まではスポーツビジネスについて学ぶ」と自分ルールを決め、会社の外で勉強したり人に会いに行ったりすることを始めました。

 

次第にその努力が認められてきて、スポーツビジネスに関する人脈や知識がTVの仕事にも活かせるようになりました。そして夢の実現のために電通を退社し、筑波大学の大学院で2年間コーチングを勉強しました。

寮教員として静岡聖光学院に採用されたのは、32歳のときでした。

静岡聖光学院に入ってからも、教員やラグビー部での監督業務に加え、財界のさまざまな方にお会いしたり、日本ラグビー協会の仕事を一緒にしたり、つねにデュアルキャリアです。

 

「どういう人間になりたいか」を考えて行動した結果が、私の場合はデュアルキャリアだったのです。「一つの仕事にしか就いてはいけない、働く場所は固定しなければいけない」と、自分の在り方を限定する必要はありません

 

あなたの夢や目標を実現できる働き方は、必ず創り出せると思います。

「その行動の先にある目的」を言語化する

-部活として競技に取り組む場合、時間や場所といった制約もあると思います。いかにしてそれらを超えてきたのでしょうか。

 

例えば静岡聖光学院は部活の練習時間が他の高校に比べてとても少なく、週3日で1日60分から90分しかありません。でも逆に考えると、他のチームより頭を使うことのできる時間はたっぷりとある。だから「体を使ってない時は頭を使いなさい」と選手たちには伝えてきました。

 

そして、自分たちが何のためにそれをやっているのかという「その行動の先にある目的」をしっかりと言語化し、意識しなさいとも伝えています。これが、選手たちのセルフプロデュースや主体性につながっていきました。

 

昨今のスポーツは、プロの指導者が正解を教えてくれたり、発言に影響力がありすぎる結果、指導者に言われた通りにすればいいと受け身になってしまう場面もあります。しかし静岡聖光学院のように制限された環境にあっては、通常のやり方や既に示されている方法ではうまくいきません。新しい方法を自分たちでゼロから作り上げていかなければならないのです。

 

「こんな未来を創りたいけれど、今のままではできない、じゃあどうしようか」という逆算の思考をする能力が、生徒も教師も鍛えられていきました。

-お話を伺っていると、スポーツには教育としての役割もあるのではと思います。

 

アスリートのキャリアや競技引退後の生き方を良くするために、スポーツのもつ教育的側面にもっと注目してもいいのではないかと考えています。

 

例えばラグビーでは「多様な人間をそれぞれどう輝かせるか」という思考が大事です。サッカーであれば「組織としてゴールを目指しつつ、いかに個の力を発揮させるか」ということが、アメフトならば「役割をどのように細分化し、明確化するか」ということが重視されるでしょう。

 

スポーツのなかで大事にされる価値観は、その競技以外の場面でも必ず活かすことができます。

楽しいだけじゃない、スポーツの持つ教育的な価値

-お話を伺っていると、スポーツには教育としての役割もあるのではと思います。

 

アスリートのキャリアや競技引退後の生き方を良くするために、スポーツのもつ教育的側面にもっと注目してもいいのではないかと考えています。

 

例えばラグビーでは「多様な人間をそれぞれどう輝かせるか」という思考が大事です。サッカーであれば「組織としてゴールを目指しつつ、いかに個の力を発揮させるか」ということが、アメフトならば「役割をどのように細分化し、明確化するか」ということが重視されるでしょう。

 

スポーツのなかで大事にされる価値観は、その競技以外の場面でも必ず活かすことができます

 

ある経営者は、自社のラグビー部を非常に評価しています。OB部員を海外に赴任させると、どうすれば人が喜ぶのか、力を発揮することができるのかという思考が身についているため、言葉の通じない発展途上国でも大活躍するといいます。

 

現地で商品を売るだけでなく、タッチラグビーを通して地域貢献もして、幹部候補生として戻ってくるのだとか。

 

世界で見出されているスポーツの価値を考えてみましょう。例えばイギリスにおいてスポーツは、もともとリーダーシップ教育のために行われるものでした。イートン校、ハロウ校といった名門校が輩出する人材は世界中に羽ばたき、向かう先々でリーダーシップを求められます。

 

そのようななかでリーダーシップを身につけるために寮対抗でラグビーをやろうということになり、キャプテン同士が話し合って自分たちでルールを決めていったのです。このように、スポーツには教育的な側面もあるのです。

 

しかしながらいまの日本においてスポーツは、教育のためというよりも「楽しむもの」になってきているように感じます。それではリーダーシップを学ぶ・教える機会としてもったいない。スポーツのもつ教育的価値は次第に薄れていってしまいます。

 

だからこそ一度スポーツの定義を見直して、身体を動かす楽しさや喜びだけでなく、学びを得る機会としてのスポーツも増えていくことを願っています。

現役の時から「何か価値を生み出す」経験を

-スポーツ庁でもアスリートのセカンドキャリアへの取り組みを始めています。セカンドキャリアを考えるアスリートにとって、今後どのようなことが必要だと思われますか。

 

アスリートのセカンドキャリアについて考えたとき、選手は同時に3つくらいの役割を持っていて、「そのうちのひとつがアスリート」というくらいの大胆な考え方をすべきだと思います。9時~17時で仕事をして18時から練習していた昔の実業団の、令和版のような感覚です。社会貢献をして、そこでお金の流れを学んで、というようなところが必要なのかなと思うのです。

 

今後の進路を考えて、不安や悩みを抱えている、苦しんでいるアスリートも多くいると思います。それは職種であったり働く場所についてなど、様々でしょう。

 

まずは今、自分にどのような価値があるのかを考えることが重要です。例えば自分がサッカーをすることによって、なぜみんながチケットを買ってくれるのか、どうして子ども達が喜んでくれるのか、そして勇気を与えることができるのか、その言語化をしっかりと行うことです。

 

それが考え方や行動のベースにあると「ゴールを決めさえすればいい」という考えではなくなります。そうやって見つけた自分の価値が、ファンサービスなどいろいろな方面に広がっていくのです。

 

その上で、デュアルキャリア的に動けるチャンスがあれば、しっかりコラボレーションすることです。現場の声を直に聞いて、いいものを一緒に作り上げていくという意識が必要です。

 

組織も選手も、自分からどんどん外に出て様々な業種の人と関わることで新たな価値を創出し、仕事につながる何かを生み出すということを現役時代から取り組むといいと思います。

 

星野明宏(ほしの あきひろ)

 

立命館大学卒業後、1995年に株式会社電通に入社。
中部支社でテレビ局を担当し、スポーツビジネス(プロレスやボクシング、総合格闘技等)のプロデュースを手掛ける。2002年に同社を退職し、筑波大学大学院で教職課程を取得。2007年に静岡聖光学院中・高等学校の教員となり、ラグビー部の監督にも就任。「今ある環境で結果を残す。プロセスを大事にする。」ということにこだわり、弱小のラグビー部をわずか3年で静岡県の強豪校に育てあげ、花園にも出場を果たした。その独自の理論や手腕を買われ、U17・18カテゴリーのラグビー日本代表監督も歴任。その後、日本開催のラグビーワールドカップ2019のアドバイザーを務めるなど、日本のラグビー界を支え続けている。

CREDIT
interviewer: Isako Yamazaki
writer : Rieko Narita
editor : Takushi Yanagawa
director : Yuya Karube
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