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掲載日:2025.7.3
最終更新日:2025.7.3
【中編】信頼を築くのは人生そのもの。プロ15年間の延長線で小林久晃が勝ち取ってきたFIDES(信頼)のあるセカンドキャリア
Jリーガーのセカンドキャリアとして飲食店やアパレルにチャレンジする人は一定数いる。裏を返せばこれらの業界はレッドオーシャンということだ。 つまりその業界で競争に勝ち抜き大成功を収めることは、非常に困難といえる。 Jリーグ5クラブを渡り歩き、15年のプロ生活を経て現役を引退した小林久晃は、引退後わずか半年で福岡市でオリジナルアパレルブランド「FIDES」を立ち上げた。ECではなく、いきなりの実店舗を構えてのスタートには驚いたが、そこから「FIDES」は快進撃を続けていく。もちろん本人は「大成功を収めているわけではない」と謙虚に言うだろうが、業界ですでに存在感を放っていることは特筆すべきことだ。なぜ彼は成果を残しているのか、そもそもなぜ無名だった高校時代から、プロの世界で15年間も高い評価を得てきたのだろう。そこには大きなヒントが転がっていると信じ、福岡市の中心部にある今泉の店舗に足を運んだ。
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INTERVIEWEE
小林久晃(株式会社Fuse One 代表取締役)
interviewer / writer:Takahito Ando
サッカー関係には就職しない、その意味とは?

前編はこちらからご覧ください。

 

「どちらかというと『アパレルしかない』というわけではなかったんです」

なぜアパレルに進んだのかという問いの答えは意外なものだった。もちろん服は昔から好きだったというが、それを職業にするまでには考えていなかった。

 

「いざ、サッカー選手を辞める決断をした時に、まずはサッカー関係には就職しない意志がありました。理由は現役中から、今も今後もサッカーだけでしかご飯が食べられないこと自体が人生におけるリスクだと思ったからです。サッカーでしかお金を稼げない自分が怖かったのと、自分が違う世界でどれだけ勝負できるかチャレンジしたかった

 

もう1つの理由は現役中にいろいろな人の話を聞いた時に、サッカー業界にそのまま残っても、プロサッカー選手であったキャリアをあまり活かせないのかなと思いました。決定的だったのは元プロ野球選手で今は焼肉屋を経営している方にも、『別のことでチャレンジした方が活かせる』と聞いた時に『確かにそうだな』と。違う世界に行って、まずはそこで頑張っていくうちに、『実はプロサッカー選手だった』の方が有効だと感じたんです」

 

サッカー以外の道。その時に浮かんだのが飲食店かアパレルだったという。

FIDES店舗内にて(提供写真)

「正直、飲食店とか、アパレルくらいしか頭に浮かばなかったんです。その中で飲食店だと自分の近くの人しか人間関係を活用できませんが、アパレルであればこれまで渡り歩いてきたクラブのある地域の人間関係を広く使えるんじゃないかと思ったんです。また、自分に合う服がなかなかなくて、ガタイの良いアスリートが着ても綺麗に見える、シルエットでスタイリッシュな服を作りたかったこともあって、直感でアパレル業界に飛び込んで勝負をすることを決めました」

 

入りは漠然としたものだったかもしれない。だが、一度チャレンジすると決めたことに対しては、徹底的に計画性と高い意識を持って取り組めるという、それこそこれまでのサッカー人生で積み上げてきたベースが、彼を一気に突き動かした。

 

「僕の中でアパレル業界がブルーオーシャンかと言われたら、そうではなく、生存競争の厳しい世界だと理解していました。当然のように僕の周りからも『アパレルはやめておけ』という意見が多かった。逆に僕はそういう業界で他と同じやり方でやっても生き残っていくのは難しいからこそ、自分独自というか、従来とは違う自分のやり方で挑んでいこうと思ったんです」

15年間プロキャリアを過ごした手を抜かない人間、という信頼

ブランド名もラテン語で『信頼』という意味を持つ『FIDES』に決め、アパレル業界で信頼を掴み取っていくために、「着心地や耐久性もお客様からの信頼を得るための大切な要素」と捉え、生地や縫製にはとことんこだわる姿勢を打ち出し、今泉に店舗を構えた。

 

「アパレル業界に行くからと言って、アパレルの内側に入って物事を見たくなかったんです。卸し(小売店への販売)をやったり、展示会をやったりしてブランドの認知を広げるやり方はみんなやっていて、逆にそれで苦労をしている。変なしがらみも生まれてしまって、思い切ったことができなくなる。じゃあ自分はそれをあまりやらないでおこうと。

 

僕はアパレルに関しては素人だからこそ、従来の業界に染まって、いつまでも昔からやっている人たちを超えられない状況に陥るより、敢えてそこと交わらずに自分の感性と感覚で勝負したいと思いました。店舗も最初は東京を考えていたのですが、東京だと埋もれてしまうと思いましたし、ちょうどサガン鳥栖(福岡の近郊)で5年を過ごし、かつそこでキャリアを終えたので、福岡を拠点にすればそれも1つの独自性になると思って決めました」

 

 

どこかの企業に就職してアパレルを学んだり、経験したりする訳でもなく、オンラインショップから始める訳でもなく、一番リスクが大きく、退路がない道を選んだのは自分らしく生きるため。その世界で上に這い上がっていくという明確な目標と決意があったからだった。

 

「やると決めたからには中途半端は絶対にしてはいけない。初めてだから少量生産とか逃げの発想ではなく、在庫を抱えるリスク、固定資産を抱えるリスクを承知の上でやりました」

 

当然、最初は舐められたり、足元を見られたりすることもあった。工場などと交渉する際は「値段を吊り上げられたり、『大丈夫なの?』と言われたりすることもありました。『大丈夫か、こんな素人で』と思われていました」と、一筋縄ではいかなかった。

 

だが、覚悟が決まった人間は強かった。周りのアドバイスをもらいながらも、確固たる信念は曲げずに本気の姿勢で商談や営業に足を運び続けた。

壁面のロゴが印象的な、FIDES店舗内観(提供写真)

「大事にしたのはちゃんと自分のことを見てもらえているかどうか。本気度として僕も素人ながら直感的に『それは違うだろう』と思ったことに対しては、しっかりと言う様にしていました。それでぶつかったこともありますが、自分の主張ばかりするのではなく、あくまでお互いがWIN-WINになる関係を構築するために本気で向き合う。

 

その上で僕が15年間、Jリーグでプレーして来たという実績が信頼に繋がっていくことに気づいたんです。『これだけ長くプロキャリアを積んだ人だから手を抜かない人間だ』と見てもらえることで、徐々に相手もこっちに真剣な目を向けてくれる。それがプロのキャリアが生かされたと感じる瞬間でもあります」

 

言動が信頼を生み出す。その行動の背景に見えるアパレルではない世界での実績がさらに信頼を深める。それこそがまさに彼が口にしていた「セカンドキャリアはこれまで培って来たものの上に新たなチャレンジをすること」の真意だった。

 

信念で立ち上げた『FIDES』はここからさらに発展していく。後編では『FIDES』の戦略の変化、小林自身のビジネス論から見える彼の価値観とメッセージを紡いでいく。

 

後編はこちらからご覧ください。

 

小林久晃(こばやし てるあき)

茨城県出身の元プロサッカー選手。ポジションはDF。

駒澤大学を卒業後、2002年にジェフユナイテッド市原(現・ジェフユナイテッド市原・千葉)へ入団。以降は、モンテディオ山形、ヴィッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府でプレーしたのち、2012年にサガン鳥栖へ加入。2016年12月9日現役引退を発表し、15年のプロキャリアに幕を閉じる。

引退後の2017年にアパレルブランド「FIDES(フィデス)」2022年に「FIDES GOLF」を立ち上げ、福岡・今泉の直営店、ECなどで展開。元プロサッカー選手のキャリアや人脈を活かし、アスリートの支持を集める。

CREDIT
interviewer / writer : Takahito Ando
director / editor : Yuya Karube
assistant : Hinako Murata / Makoto Kadoya / Naoko Kamada
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