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掲載日:2023.10.3
最終更新日:2023.10.17
【中編】『勝ち』じゃなくてもいい、『価値』を生み出そう。アイドル、そして格闘家の妻として見出した「支える」ことへの価値とは
佐藤すみれは弊メディアでも取り上げた格闘家・愛鷹亮の妻であり、AKB、SKEのメンバーとして表舞台に立ってきた元アイドル。大きな挫折の最中にいた愛鷹亮を彼女の眼はどう映していたのか、そしてどう接してきたのだろうか。愛鷹・佐藤夫妻が行った講演会と翌日のインタビューを通じて見えてきたのは、プロアスリートである夫を支えるにあたって、彼女の経験則が大きく影響していたことだ。彼女もまた、厳しい芸能界の世界でプロアスリートと同じように、輝く世界に対しての強い憧れと向上心を持ち、悩み、苦しんで、最後は自分のあるべき姿を見つけていったプロフェッショナルであった。今回は前編・後編に分けて、彼女のプロアスリートに対する接し方、考え方を彼女自身の物語を交えながら、お届けする。
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INTERVIEWEE
佐藤すみれ(クリエイター/二児の母)
interviewer / writer : Takahito Ando
「空っぽの自分」に新たな輝きを詰め込んで

前編はこちらからご覧ください。

 

SKEにおいて自分のやるべきことは何か―。

 

周りのメンバーは23歳の自分よりも歳の離れた10代のメンバーが多い。彼女たちはアイドルとしての経験値もまだ浅い。そうであれば、リーダーとして自分が引っ張るというより、彼女たちをサポートして輝かせることが自分の大事な役割かもしれない。

 

「周りを変える、環境を変えようとするのではなく、自分を変えよう。そのためには一度プライドを全部捨てて、腰を低く、後輩たちに目線を合わせて、寄り添うように接しようと思ったんです」

 

そう思った佐藤はこれまで距離の遠かったメンバーに自分から歩み寄った。積極的に声をかけてアドバイスをしたり、意見を聞いたりする佐藤に対して、他のメンバーは最初こそ大きな戸惑いを見せたものの、佐藤がその姿勢を持ち続けたことで徐々に心を開いてくれるようになった。

メンバーの浅井裕華とは特に親しくなり、今でも親交がある

 

心の持ち方を変えただけで、目の前の景色が劇的に変わっていくのが分かった。

 

「何事も、自分が心を閉ざしてしまうと何も見えなくなるんだなと感じました。『敵だと思っていた人が実は味方だった』とか、人の良い部分を捉えるためにはまず自分の扉を開かないといけないのだと。自分から環境を受け入れて、その上で自分を開いていかないといけない。

 

それまでの私は、周りのメンバーからしたら先輩で怖くて、馴染もうともしてこないから、どう扱っていいか分からない存在だったと思います。そこは本当に今でも反省しています。でも『ありのままの自分を見せよう』、『みんなに居場所を作ってもらおう』と思ったことで、自分も楽になったし、そこからは毎日が楽しくなっていったんです」

 

これまでの3年間は自分だったようで、自分ではなかった。「佐藤すみれはAKBではなくSKEのメンバーになっている」ということは、3年前の移籍発表の時点で、誰の目にも明らかだった。それにもかかわらず、他でもない自分自身がそれを否定し続けてしまった。それがSKEに馴染むための障害になっただけではなく、自分自身の成長と可能性を妨げる最大の要因となっていたことに、ようやく気づくことができた。

 

あれだけ孤独だと思っていた自分の周りには、こんなに頼もしい後輩たちがたくさんいた。徐々に後輩たちだけではなく、後輩たちのファンからも感謝されるようになり、彼女のアイドルとしての日常に彩りが戻っていった。

 

その姿がスタッフにも評価され、彼女はSKEにおいて「若手育成係」という役職にも任命された。責任感が強まった彼女は、これまで以上に後輩たちのために経験を伝えたり、時には心のケアに回ったりと、見えないところで汗をかき続けた。この瞬間、ついにあの時の言葉の意味がようやく分かった。

全ては後輩たちのために。晴れやかに迎えたアイドルとしての終着点

「どの世界も一番上に行くことが大事かもしれないけど、人にはそれぞれ自分にあったポジションや役割があって、それを全うすることによって、生かし生かされ、その結果信頼で繋がって自分に返ってくるし、素晴らしいグループ活動ができるんだと思います。」

 

12月に行われるAKB48劇場とSKE48劇場、両方での卒業公演が決まったのは、2017年の6月。そこからの半年は、「SKEの後輩たちのためにやるべきことを全部やろう」と強く意識するようになった。すると卒業公演の直前に最後のテレビとなるNHKの歌番組の出演の話が舞い込んできた。これに対し、「(所属していた)SKEのチームEとして出演させてください」と佐藤が懇願したことで、彼女だけではなく、チームとして出演することとなったのだった。

NHKには「SKEのチームE」として出演

 

チームとして明確な目標が出来たことで、全員がモチベーション高くレッスンをこなすことができた。名古屋からチームE全員で東京に赴き迎えた本番では、AKBの楽曲をSKE風にアレンジして歌い切った。そして、2つの劇場での卒業公演も大盛況に終わり、彼女は有終の美を飾ることができた。

 

「最後に後輩たちに大きなプレゼントをすることができた。本当に最高な10年間のアイドル生活でした」

アスリートはアイドル、アイドルはアスリート。

あれから5年経った今、佐藤は格闘家・愛鷹亮の妻として、2歳の娘の母として、そしてお腹の中には第2子を授かって、講演会というステージに立っていた。

 

「結婚してから夫の試合を見に行くたびに、負けが続いても心が動かされました。そこで誰かのファンになる感覚を知った。みんなの期待を背負ってリングに立つ彼の姿は、私にとってはアイドルでした。

 

アイドルとアスリートはそれぞれ異なるものだと最初は思っていたのですが、夫を見ていると『アイドルみたいだな』と思うところはたくさんありました。辛いところを表に見せてはいけない。リングという舞台に立ったら、精一杯自分の力を発揮しないといけない。何より応援してくれる人たちがいる限り立ち止まってはいられない。

 

アスリートはアイドル、アイドルはアスリートだと思ったからこそ、私と夫の2人の経験を言葉で発信することで、誰かの背中を押すことができるかもしれない。そう思って、この講演会をすることにしました」

 

凛とした姿勢でこう口にした佐藤に、改めて格闘家の妻として感じるところを聞いた。

 

「一緒に戦っているという気持ちはありますが、大事なのは相手の気持ちを尊重することだと思っています。そして、いかに納得してプロフェッショナルとしての時間を過ごすことができるかだと思っています」

 

改めて2人の講演会とそれぞれの長時間インタビューを通して、2人は似ていないように見えて、似た者同士であると感じられた。お互いの長所を尊重し、支え合いながら進んでいく。それはこれからも変わることはないだろう。

 

佐藤はアスリートを支える妻として、夫のことを「猪突猛進気味になると本当に突拍子もないことを言い、それしか見えなくなってしまうので、そこはうまくバランスを取りたい」と優しく見守る。

 

その一方で講演会については「いつものかっこつけではなく、私はもっと彼の忖度なしの熱い言葉が聞きたいんです。聞こえの良い言葉や、良いことを言おうとするのではなく、もっと無骨でストレートな言葉を聞きたかった。最初の彼の講演原稿とパワポを見た時に、彼の良さが全然出ていないし、薄っぺらいと思ったんです。

 

カッコをつけている話なんて聞きたくないし、私は彼が味わった挫折のもっともっと深いところを聞きたいとストレートに伝えました」と、ステージに立つプロフェッショナルとしての意見も忘れなかった。

 

こうした姿を見て、佐藤がSKEを卒業する際に、自分の晴れ舞台であるはずの最後の歌番組をSKEにとっての晴れ舞台にしたのも、彼女が自分の『勝ち』ではなく、後輩たちとの『価値』を選んだからなのだと合点がいった。「『勝ち』から『価値』へ」は、愛鷹だけでなく佐藤すみれの人生におけるテーマでもあったのだ。

 

後編では『勝ち』に飢えていた愛鷹の考えを、いかにして2人で『価値』を求める生き方へと変えていったのか、彼女らの歩みや葛藤を通して記していく。そこには、2人の人生が何度もリンクするドラマがあったーー。

 

後編はこちらからご覧ください。

佐藤すみれ(さとう すみれ)

埼玉県出身の元アイドル。夫は格闘家の愛鷹亮。
小学1年生の時にスカウトされ芸能界に入る。子役などの活動を経て2009年にアイドルデビュー。アイドル時代はSKE48およびAKB48に所属し、「すーめろ」の愛称で愛された。2017年に同グループを卒業。
現在はクリエイターとして活動中。カフェやスイーツ、ファッションのプロデュース等を手がけ、講演会講師も務めるなどその活動は多岐にわたる。

CREDIT
interviewer / writer : Takahito Ando
editor : Takushi Yanagawa
director : Yuya Karube
photographer : Fumitaka Nakagawa
assistant : Yuta Tonegawa / Naoko Yamase
SPECIAL THANKS
浅井裕華(SKE48)
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