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掲載日:2024.6.26
最終更新日:2024.6.26
【後編】「引退」など考える必要はない。人生を組み上げる起業家兼現役アスリート小谷光毅の軸の作り方
小谷光毅、元プロサッカー選手。ビジネスとサッカーを両立してきた彼は、ドイツリーグとJリーグを経験し、今なお神奈川でプレーを続ける一方で、金融業界を経て自身の会社を設立しアスリートのキャリアに関する課題へ一石を投じている。これまでの歩みを紐解く中で見えてきたのは、彼の経験に裏打ちされた思考術と人生の軸、理想とするある人物の姿だった。小谷の目に世界はどう映り、なにを模索してきたのか。そして追い続ける理想とはー。
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INTERVIEWEE
小谷光毅(株式会社Athdemy 代表取締役社長)
interviewer / writer:Takahito Ando
Jリーグの舞台を3年で終わらせビジネスと両立の道へ

中編はこちらからご覧ください。

 

「やっぱりもう1個上には行けなかったのがすべて。J3でやれるのは3シーズンで分かったので、次のステップに行きたかったけど、選ばれなかった。J3でそのまま続ける選択肢もありましたが、”自分の人生の幸せとは何か”を考えた時に、サッカーとビジネスを両立することがそれを最大化できると思ったんです。」

 

プロサッカー選手になってからも政治経済の動向のチェックを怠らなかった。毎朝、日経新聞をチェックし、Jリーグ時代には、スポンサーの社長と会う機会を自ら作り続けた。野村證券で得た知識、経験を継続して積み重ねていたからこそ、プロを辞めることを決めてからのビジョンも明確に持つことができた。

 

「岩手、秋田という地方の中小企業の経営者の皆さんとの会話の中で、ほとんどがバックオフィス(企業の利益に直接関わる営業やマーケティングなどのフロントオフィスを後方からサポートする業務)に課題を抱えていることが分かりました。素晴らしい企業なのにバックオフィスが煩雑になっていたり、滞ったりしている現実を目の当たりにしたんです」

 

企業の課題感を実感したことで、自分がやるべきことはその課題の解消だという道筋が見えた。いくつか次に行く企業の候補をリスト化し検討をつける中で、小谷は株式会社マネーフォワードに行きついた。

「当時、マネーフォワードはマザーズで右肩上がりに成長していた企業。プロサッカー選手の次のキャリアとして大手企業かスタートアップかを考えた時に、メガベンチャーで伸びている企業で結果を残すことができればキャリアに箔をつけることもできるなと。

 

マネーフォワードはまさにドンピシャでした。しかもバックオフィスを支える税理士や会計士などに寄り添ってプロダクトを作る企業ですから、ここならJリーグ時代にスポンサー社長との会話から得た中小企業の課題を解決できると確信しました」

 

すぐに面接を申し込むと、2020年のJ3リーグ最終節の長野パルセイロ戦の前泊のホテルでリモート面接を受けて内定を手にした。さらに「サッカーとビジネスを両立することで人生の幸福度を最大化できると思った」と社会人サッカーを選択。2021年2月1日のマネーフォワード入社と同時に、サッカーとビジネスの両立の日々がスタートした。

パソコンスキルゼロからの社会人再スタート

マネーフォワードでも小谷は持ち前の情報収集能力と情報処理能力をフルに発揮し、野村證券の時と同様に驚異の成績を残した。「パソコンのスキルがゼロで、入社日のパソコンのセットアップの際に電源の場所すらわからなかった」状態であったにもかかわらずである。

まず彼がやったのはトップセールスを叩き出している社員の行動と商談スキルの分析だった。

 

「トップセールスの人と同じことをやれば、まずその人と同じレベルに到達できると考えました。その人のカレンダーを見てどういう流れで動いているのか、商談動画を全て文字起こしをして、どういう言葉で、何を話しているのかを分析したんです。

 

その分析をもとに行動に移していくと、無駄なことをしなくなるし、逆に『ここはこうした方がいい』という自分のアイデアや戦略も生まれてきた」

 

優秀なプレーヤーの必勝パターンを学んだ上で自分流にアレンジする。このやり方で彼は3ヶ月後にトップセールスとなり、半年後には社内ギネスの記録を叩き出した。

 

彼はマネーフォワードを1年2ヶ月で退職し、次は未上場の株式を扱い、日本初の株式投資型クラウドファンディングを行う株式会社FUNDINNO(ファンディーノ)に入社した。

 

「野村證券のときにお客様から『上場株はもう飽きたからもっと未上場とか、世の中のためになるようなことをしている経営者を応援したい』という声を多くもらったのですが、当時はそれを取り扱うことはできませんでした。

 

だからこそ、『いつかはやりたいな』と思っていたところで、FUNDINNOに行き着いたんです。未上場で「世の中を変えたい」とか、社会課題に向き合っているようなスタートアップや経営者と投資家をマッチングさせるプラットフォームを扱う会社で、ここだったら野村證券時代に抱いた課題感を解決出来ると思って行きました」

 

サッカー面では、2022年から当時、神奈川県2部リーグの鎌倉インターナショナルFCに加入し、現在も選手として神奈川県1部リーグでプレーし続けている。

 

サッカーとビジネス。この両立を続ける彼は、ついに自分の会社を立ち上げるに至った。それが前述した通り、アスリートの現役キャリアを起点にパフォーマンスの向上やバリューアップに関するコンテンツを開発・提供する株式会社Athdemyだ。

キャリアの3ステップを経て、”引退”という概念をなくす

「プロアスリートがキャリアを構築していくには3ステップがあると考えています。まずは活躍してステップアップしていくことにこだわり抜くこと。それと同時に自分自身の商品価値を知り、かつ自分がいる業界を知る。次にその価値をどう高めていくのか。何のために、誰にどうやって届けていくかを考えると、戦略が生まれます。

 

それが出来ると何が起こるかというと、『ステークホルダー』のことを意識するんです。ステークホルダーにどういう人たちがいて、どんな企業で、その人たちは何で自分を応援してくれているのか、何を求めているのかを考えると、必然的に視野が広がって、視座が高まります。そして興味・関心が生まれたら、そのことを深めればいい。それが3つ目のステップなんです。僕はファーストステップから伴走して行きたいと思い、この会社を立ち上げました」

自身もプレーしながら、ビジネスでは会社だけでなくアスリートもサポートをする。これはまさに周りをサポートして輝かせながら自分もゲームを作り輝くボランチのような役割だ。自分自身と先を走っている他者を分析し、その業界全体の大局を把握しながら決断と選択を連続して行っている。そう、遠藤保仁のように。

 

「僕は物事を吸収するのが得意。それを自分にどう活かすのか、どうアレンジするのかが好きなんです。サッカーも、どの仕事も方向性はブレていないし、すべてリンクしているんです。だからこそ、いろんなイメージとアプローチが生まれるんです」

 

まさに生まれながらのボランチである小谷は、これからどういうビジョンを描いているのか。

 

「僕は『引退』という概念をなくしたいんです。例えば高校や大学卒業後に競技そのものを辞めてしまうとか、プロの選手も『引退後はビジネスに集中します』とか、もちろんそれも素晴らしい決断だと思います。中にはまだやりたいのに何らかしらの理由をつけてやめてしまう人もいる。

 

自分で限界を決めるのではなくて、チャレンジし続けるというか、好きなことをできる環境を作ることを考えながらやっていこうというメッセージを込めています。また、僕たちは”現役”を”挑戦し続けられている状態”と定義しているので、スポーツ、ビジネス問わず、誰もがワクワクしながら挑戦し続けられていたらそれってかっこいいよね、と。そういう意味でも引退という概念をなくしたいと思っています」

 

挑戦し続けるためにはどうするべきかと思考回路を変えるだけで、チャレンジする意義や価値、自分が進むべき方向性を自分自身の現在地と共に導き出すことができる。それを生き方として具現化させている小谷だからこそ、伝えられるものがある。

 

「自分が『やりたい』と少しでも思うのであったら、やろうと思えばできるし、やったら幸せなんだよと。そこを見せて、示していけたら日本に漂っている閉塞感を打破できると信じています」

 

その目はしっかりと自分自身と未来を見つめている。遠藤保仁という永遠の理想像と共に。

小谷光毅(こたに ひろき)

大阪府出身のサッカー選手。ポジションはMF。

ガンバ大阪のアカデミー出身で、大学時代は明治大学でプレー。卒業後は野村證券に就職したが、再びサッカーの道へ進むためにドイツへ渡り、2017年1月にドイツ5部のBCF Wolfratshausenへ加入。同年7月、ドイツ4部のVfR Garchingへ移籍した。

2018年にグルージャ盛岡へ完全移籍で加入し、以降はブラウブリッツ秋田を経て、いわてグルージャ盛岡へ復帰。2022年より神奈川県社会人サッカーリーグ2部の鎌倉インターナショナルFCにてプレーを続ける。

攻撃的なポジションでのプレーを得意とするが守備のクオリティも高く、司令塔としての役割を担う。

プレーを続ける傍らで2023年に「アスリートが輝き続け、引退のない世界を創る」というVisionを掲げ、株式会社Athdemy(アスデミー)を立ち上げる。

CREDIT
interviewer / writer : Takahito Ando
editor : Takushi Yanagawa
director : Yuya Karube
assistant : Naoko Yamase
SPECIAL THANKS
小谷忍/盛子
ガンバ大阪
野村證券株式会社
株式会社マネーフォワード
鎌倉インターナショナルFC
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