TOP > Career > 【後編】サッカー選手は与えられる存在だと気づいた増田繁人の利他心。キャリア形成、生き方に.. 【後編】サッカー選手は与えられる存在だと..
Career
掲載日:2025.4.3
最終更新日:2025.4.3
【後編】サッカー選手は与えられる存在だと気づいた増田繁人の利他心。キャリア形成、生き方にも影響する”腹の括り方”
Jリーグ屈指の『愛され男』だったと言っていいだろう。アルビレックス新潟、ファジアーノ岡山、ブラウブリッツ秋田などでプレーした増田繁人は、人当たりが柔らかで、取材などの応対も笑顔でハキハキ答えるなど、周りから愛される選手だった。彼はいま、持ち前の明るいキャラクターと誠実な人柄をIT関係のソフト販売の営業として発揮している。 増田が引退したのは2024年2月と取材までそれほど時間が経っていないが、彼が『今』何を考えているのか、どのようなビジョンを持っているのかをコラムにすることがセカンドキャリアに対する大きなヒントになるという確信があった。 「人生って本当に谷があるから山が綺麗に見えるんですよね。僕はありがたいことに谷は多かったけど、ちゃんと乗り越えてきた感覚があります。それが自分の蓄積になっているなと。それを伝えていきたいですね」 彼の人生を深堀りし、その根底にある想いを紐解いていく。
シェアする
INTERVIEWEE
増田繁人(株式会社リーディングマーク アカウントエグゼクティブ)
interviewer / writer:Takahito Ando
すべての言い訳を捨てて全力で打ち込む覚悟

中編はこちらからご覧ください。

 

「サッカー界を飛び出して社会的な力をつけていくと自分で決めたのに、全然コミットしようとせずにむしろ環境のせいにして諦めようとしている自分がいる。めちゃくちゃダサいなと思ったんです」

 

あんなにサッカーに没頭していた自分が、ジャンルが変わった途端に没頭できていない。没頭できていないからこそ、短絡的なネガティブ思考を生み出す。ただ現実逃避をしている自分は、想像以上にかっこ悪かった。

 

「ここできちんとコミットしてやらないと、たとえ別の世界に行ったって何もかもが中途半端になる。すべての言い訳を捨てて、全力で仕事に打ち込もうと覚悟を決めたんです」

 

実はこの時、彼は仕事だけでなく、セカンドキャリアに向けて勉強も同時進行していた。入社と同時にビジネススクールにも通った。ここは「自分はどう生きるべきか」を問い続けられるコミュニティで、世の情勢、政治、経済、金融など、膨大な量の本を読んで、毎日夜の22時から25時くらいまでミーティングをして、ブラッシュアップするという学びの場だった。知見を広げてはいけたが、慣れない職業で悪戦苦闘する彼にとって、これは明らかにオーバーワークだった。

 

「あの時は社会人と勉強に自分のパワーの120%を出しきっていたつもりでした。でも、冷静に考えたら、それぞれへのパワーが60%、60%くらいにしかなってなくて、どっちにもフルパワーを出せていなかった現実に気づいたんです。どっちも中途半端になっているのは良くないと思って、今は仕事に振るべきだと、ビジネススクールは一度辞めた。これも僕なりの覚悟でした」

 

11月、目の色を変えて仕事に没頭する彼の姿があった。

 

「今まで1日100件近くかけていた営業の電話を、1本ずつ全て振り返って、どのフレーズが良くなかったのか、どの言葉が届いていなかったか、このトーンは相応しくないなど細かく振り返る。そこからどうやったら成約に結びついていたのかと自分なりの仮説を立てて、それを毎朝上司のところに行ってディスカッションするようになりました。そこから実際の営業電話を聞いてもらって、意見をいただくなどして、自分のスキルをブラッシュアップすることにフォーカスしました」

 

成果は目に見えて表れた。あれほどまで冷たかった電話口の相手が自分の話を聞いてくれるようになった。さらには逆質問を受けるようになり、会話のキャッチボールが成立していくと同時に、アポイント成功数も右肩上がりを見せた。

 

コミットしてから1ヶ月足らずで、それまで1ヶ月に6件しか取れなかったアポイントは36件に達し、最下位だった成績は一気に1位まで駆け上がった。

 

「成果の出方は正直驚いていますが、やっぱり何事も本気で取り組むことの大切さを改めて痛感しました」

 

12月からはアポイントではなく、成約の獲得を目的とする営業部署に異動となった。より実践的な知識と交渉術が求められる中、彼は同じように自分の営業の仕方を分析し、上司とディスカッションをしながら自己研鑽と会社への貢献に全力を尽くしている。

 

「今はいい意味で利己とか利他とか考えている暇がなくて、必死に毎日を過ごしているからこそ充実しています」

もどかしい時期だからこそ、顔をあげる意味

誰しもが感じたことがある「こんなはずじゃなかった」「なんで思い通りにいかないんだ」というもどかしい想い。だが、人間はそういう時にこそ、視野を狭めることなく、周りに目を向けて、その状況でもそばにいてくる人間や話を聞いてくれる人間、そしてその人たちといる環境に感謝の気持ちを持つことで、自己肯定感を向上させることができる。

 

自己肯定感が上がれば、思考は前向きになり、一歩、また一歩を踏み出すエネルギーになる。彼のこれまでの人生を振り返ってみると、まさにそのことを実証している道のりだった。

もがいた時期を振り返りながら話してくれた(写真は本人提供)

 

「マイナスな状況だからこそ、いま目の前にあるものに感謝し、取り組もうとしていることに腹を括れるかどうかで、その後の人生の充実度が決まってくると思います。それを教えてくれたのがお爺ちゃんであり、家族であり、治療に携わってくれた人であり、僕を受け入れてくれたクラブ、そして会社なんです」

 

真っ直ぐな視線をこっちに向けて力強く話す増田に、「もし、2018年〜2020年の間に利他の心に気づかずに引退をしていたら、その先の人生どうなっていたと思いますか?」という質問をぶつけてみた。すると、彼はしばらく考え込んだあとにこう答えた。

 

「想像もつかないですよね。面白い質問です。あのまま単純に怪我とモチベーションの低下で辞めていたら、すごく表面的な人間として生きていたかもしれない。今振り返っても、本当に愛情に触れたという感覚が鮮明で、そこからずっと苦しいことがあってもハートフルな人生になっているなと思うんです。

 

お爺ちゃん、家族、周りの人たちから、人を愛すること、愛してもらうことを学んだ感覚があったので、それがない状態で生きていたら、常に自分中心だったかもしれないし、答えのない幸せをめちゃくちゃ求めてしまっていたかもしれないですね」

 

社会人1年生、目標に向かって今に没頭する彼は、将来のビジョンをどう描いているのか。

サッカーから離れたから見えた、スポーツの価値

「将来的に僕がやりたいことはサッカーに恩返しをすること。具体的に言うとクラブの社長だったり、Jリーグの理事だったり、そういうマネジメントをする側になりたい。最近ちょっと腑に落ちたのは、『どうしてサッカーに恩返しがしたいんだろう』と考えた時に、スポーツってかなりの価値があると信じているからです。

 

何がすごいって言うと、いろんな人の感情がめちゃくちゃ動く。あんなに大人が泣いたり、本気で喜んだりすることってほとんどないじゃないですか。それがサッカーを離れてわかったんです。

 

ルヴァンカップの決勝戦を国立競技場に観に行った時も、かつて所属していたアルビレックス新潟のサポーターはもちろん、対戦相手の名古屋グランパス、そしてサッカーファンが3-3のPK戦までもつれ込む熱戦を食い入るように見つめて、熱狂して、勝った方も負けた方も涙を流している。

モチベーションの源泉はサッカーを通じて出会った感情だった(写真は本人提供)

 

『あ、普通に生活をして仕事をしていたら、プロの時はあんなに当たり前だった感情の起伏が少なくなるんだな』と思ったんです。

 

だからこそ、ここまで感情が揺さぶられるスポーツってめちゃくちゃ大事だし、かつて身を置いていた自分としては、役割が変わってももう一度あの世界に飛び込んで仕事をして周りの人たちと感情を揺さぶられる瞬間を味わいたい。それが僕にとっての恩返しなんです。

 

もちろん、今はそのために自分の知見を広げて社会的なスキルを向上させる大事な時間ですし、何かにコミットできている自分と、それによって笑顔になる周りの人たちの存在が大きな幸せを与えてくれているんです」

 

まだまだ夢の半ばの新米だが、最後にアスリートに伝えたいことがあるそうだ。

 

今を本気で生きていてくださいと現役アスリートに伝えたいです。今を本気で生きられない人は、辞めても本気で生きられないと思う。これは『当たり前のことじゃん』と思われるかもしれませんが、サッカーってすごく楽しかったし、小さい頃から本気でやってきたので、頑張ることが当たり前なんです。

 

サッカー選手として頑張ることに何も違和感はなかったのですが、社会に出ると、やりたくないことがまず先に来るかもしれない。やりたいことを本気でやる方がやりやすいのは当たり前だけど、やりたくないことを本気でできない人間は、社会に出たら何もできないことをこの数ヶ月で学びました。僕は早い段階でコミットできたけど、そのままズルズルいってしまう人も必ずいると思う。そうなってしまっては気づけるものも気づけない」

アスリートへは「今を本気でいきてほしい」と伝えたい(写真は本人提供)

 

そう語っているときに彼の顔が突然、ハッとした表情となった。この後にこぼした言葉が、まさに物事の本質を突いていた。

 

「そういえば、僕はサッカー関係、サッカー外の先輩などから『結局、何事も腹を括ることが大切だから』と言われていたことを思い出しました。いま思うとその言葉に対して『そんなの当たり前じゃん』と思っていて、当時は正直全くピンと来ていなかったし、忘れていました。でも、実際にその言葉の重みに気づくことができた。あれは真意だったんですよね。なので、これはみんなにも声を大にして言いたいです」

増田繁人(ますだ しげと)

千葉県出身の元プロサッカー選手。ポジションはCB。

流通経済大学付属柏高校を卒業後、2011年にアルビレックス新潟へ入団。以降は2013年にザスパクサツ群馬、2014年に大分トリニータ、2015年にJ3のFC町田ゼルビアへの期限付き移籍を経て、2016年にアルビレックス新潟へ復帰した。その後は再び町田ゼルビアやファジアーノ岡山、藤枝MYFC、ブラウブリッツ秋田と複数のチームを渡り歩き、2023年、ナショナル・プレミアリーグス・ビクトリアのハイデルバーグ・ユナイテッドFCに加入した。2024年2月15日に現役引退を発表。

現役時代は190cmの長身を武器に、ヘディングや対人プレーでチームの勝利に貢献した。

現在は株式会社リーディングマークに所属し、新たなキャリアを歩んでいる。

CREDIT
interviewer / writer : Takahito Ando
director : Yuya Karube
editor : Takushi Yanagawa
assistant : Naoko Yamase , Makoto Kadoya
SPECIAL THANKS
シェアする