シティフットボールグループ(以下CFG)は、イギリスで実施された「働きがいのある職場ランキング」で2016年、2017年とトップ30入りを果たしています。セールスフォースやAdobe、マクドナルド、ヒルトン、KFCなどの名だたる企業と、サッカーチームの運営母体が肩を並べているのは少し想像がつかないことではないでしょうか?
CFGは2013年に設立された法人であり、アカデミーの運営や投資活動、そして10のサッカークラブを所有しています。グループの総売り上げは約1000億円)、従業員数は約500名(2021年-2022年当時)となっています。
CFGの目標は「魅力的なサッカーをプレーし、情熱的なファンのコミュニティを魅了し、ユニークであり、それでいてグローバルかつローカルなアプローチを採用する」こと。ひとつのスポーツクラブを運営することに留まらずディズニーのような世界的エンターテイメント企業を目指しています。
CFGはサッカー業界がより「ビジネスとして持続可能性があるもの」に向かっていかなければいけないことを察知し、大きな投資を使ってクラブ運営をグローバルかつローカルに、そしてプロフェッショナルにしています。もちろん働く人もプロフェッショナル。彼らの採用情報を見ていくと、「最高水準」「ベストプラクティス」という言葉が何度も出てくることがわかります。
余談ですが、今日ご紹介するCFGのジョブディスクリプションは表現や明瞭さなどのクオリティもトップクラスであると感じました。
CFGの公開されているすべてのジョブディスクリプションを見ると、4つの力が特にフューチャーされていることがわかります。それは「最高水準を追い求める力」「戦略遂行能力」「仮説検証能力」「コミュニティをリードする力」です。
これらはスポーツ業界に限らず求められるものかもしれませんが、CFG、ひいてはスポーツの世界ではどのように捉えられているのでしょうか?
■ 戦略遂行能力
CFGでは全体の方針や戦略をとても重要視しており、プログラムやポリシー、哲学などに沿って組織全体として一貫した仕事をすることを強く求められています。これはグループの経営に必要不可欠な職種だけが求められているのではなく、フォトグラファーやコーチ(もちろんとても重要な役割です。)にも言えることです。
例としてドバイで募集されているコーチの求人情報を見てみましょう。(※求人情報は変更・募集終了している可能性があります。)
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【基本情報】
【目的】
【責務】
【不可欠な知識・スキル・経験】
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ご覧のように、イギリスから離れたドバイでのコーチであってもそのプログラムの中にはCFGのポリシーや哲学を入れ込み、浸透させることを強く求められています。
また、フォトグラファーリーダーのジョブディスクリプションでもコーチと同様に全体を一貫させた行動を責務として設定し、実現させることを求めています。
【フォトグラファーリーダーの責務】
2つのジョブディスクリプションを見ると分かるように、CFGが急成長を遂げた要因は「組織としての戦略遂行能力にある」と言っていいでしょう。現場からの情報をグローバルに収集し、成果を上げるためにはそれぞれの役割がどのように在るべきかを定めています。
これによって現場は世界各地からの知識や経験を得ることができ、それぞれの地方でベストプラクティスを実施し価値を提供することができています。
世界各地に存在する「今はあまりうまくいってないが成功するポテンシャルを秘めたクラブ」を買い、ベストプラクティスを提供する。結果、成績を伸ばし、クラブの価値を押し上げることに成功しているのは、CFGが徹底する「組織としての戦略遂行能力」の影響であると言えます。
組織が戦略遂行能力を持つことは簡単なことではありません。一人ひとりの従業員がその重要性を理解し、小さな仕事にさえも高い意識を持つことが大切になります。そのため、CFGでは採用する役割に就く一人ひとりに戦略遂行能力を求めます。
このことを「堅苦しい」と感じる人もいるかもしれません。ですが、実際はむしろその逆です。方針がしっかりしていて、やってはいけないことが定義されており「あとは目的に沿っていれば好きに行動して良い」という環境が、チャレンジを促しアイデアを実現させる環境として理にかなっているといえます。
この戦略遂行能力はアスリート人材にとって、「他の人材との違い」を生み出せる要素であるといえます。アスリートは試合に勝つために、監督やコーチが立てた戦略を実行してきました。その戦略が上手くいかなかった場合は臨機応変に対応し、微調整しながら競技を行っています。これは日々のトレーニングから意識されていることでしょう。
このように、スポーツを職業とする人にとって「戦略」は当たり前に重要なことかもしれませんが、戦略を理解し遂行する能力のあるビジネスマンはそう多くありません。働く全ての人が、どれだけこの能力を重要なことと認識しているかは疑問が残るところなのです。
■ 仮説検証能力
2つめは仮説検証能力です。仮説検証能力とは、目的を達成するための問いに対して仮説を立ててそれを実行、そしてその仮説があっているのか間違っているのか、そこから何が言えるのか検証する力のことです。
実際に募集されているパフォーマンスアナリストの求人情報(※執筆当時)を見てみましょう。
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【基本情報】
【目的】
【責務】
【不可欠な知識・スキル・経験】
【望ましい知識・スキル・経験】
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Tableauはデータ分析を行うためのITソリューションです。データ分析の力だけでなく、心理学的なアプローチを求めているのは非常におもしろいポイントだと感じました。
この求人からは、パフォーマンスアナリストに対する要求として、「対戦相手の試合映像を分析し、関連するコーチングスタッフに洞察を提供し」、「練習や意思決定に役立つデータインサイトの導入において、コーチや選手の教育や進化をサポートする。」「データや映像からインサイトを導き出し、直感的なレポートや魅力的でインタラクティブなコンテンツを作成できる高い能力」などが挙げられているのがわかります。
つまり、事実からインサイト(例えば、シュート数が少ないのは奪うエリアが低く、その原因はXXXにあるのではないか、などの仮説)を提供し、それを確かめチームに役立てることが求められているのです。
これは何もパフォーマンスアナリストだからというわけではありません。上で既に出ているコーチのジョブディスクリプションにおける【不可欠な知識・スキル・体験】にも、「プログラムの計画、実施、レビューの経験と知識を有すること。」と「完成したプログラムを評価し、見直す能力」というものが書かれています。
これはまさしく、どのようなプログラムを提供したら良いかを仮説を立てて作成し、その評価と見直して改善していくことが求められているということなのです。
この仮説検証能力もアスリートがビジネスマンと”違い”を作れるポイントになるはずです。アスリートは日々のトレーニングなどで「どうしたらさらに良い状態を作れるか」を考えて汗を流し、自分の現状を評価し、翌日以降改善していく機会があります。この機会を最大限に活かし、自ら考え、調べ、実行していくことで仮説検証能力をつけていくことが可能です。
前編ではCFGで求められる能力のうちの2つを見ていきました。これら2つの能力は、アスリート人材が「違い」を生み出すものです。一般的なビジネスマンはこの能力を一から身につけていかないといけませんが、アスリートは競技生活の中で培ってきたものがあります。
CFGのジョブディスクリプションはスポーツビジネスで働きたいと望んでいる人に、現役のうちからどのようなことを身につけるべきか、今のキャリアで何を考えるべきかのヒントを与えてくれています。
後編はこちらからご覧ください。